妖怪王

第八夜

頬を紅潮させたアテムがカードバトルシステムから出てくると、目の前に腕組みをした海馬が立っていた。海馬はじっとアテムを見つめてこう言った。
「おまえ、名は何という?」
「アテム」
その問いに、思わず自分の本当の名を答えてしまったアテムだったが、海馬は特にその名に興味をもった様子は無かった。思えばアテムが海馬と会うのはバトルシティ以来である。海馬はおそらく記憶の旅の事もアテムが本当の名を取り戻した事も知らない。まあどうせオカルト嫌いの海馬に言っても一笑に付すだけだろうが。
だが、もしかしたら闘いの儀で自分が還った事も知らないのだろうか?確かに武藤遊戯という存在は今も健在なのだから、その中から自分が消えた事に気づかなくても不思議は無いのだ。
(そういえばコイツにオレの本当の名を告げるのはこれが初めてなんだな…)
そうアテムは思った。

海馬は不思議な気持ちでアテムと名乗った子供を見つめていた。こんな子供が自分をあそこまで追いつめるほどのデュエルをするとは。それだけでは無い。先ほどの驚愕は以前にも感じた事がある。かつて『もうひとりの遊戯』と対峙した時だ。それは同時に自分が初めて敗北を実感した苦い経験としてしっかりと心に刻まれている。
(似ている…ヤツに)
海馬がそう感じたのは目の前のアテムの容姿では無かった。(当然、容姿はまんまミニチュア!ちびキャラ!?なのだが)似たようなデッキ構成で似たようなプレイングをしても偽物ならすぐに解る。魂のあり方が違うのだ。
(コイツは本物だ)
ガイアが…ではなく、海馬のデュエリスト魂がそう囁いていた。
この海馬瀬人という男、デュエルで人を計りすぎるとか自分の好き嫌いを優先しすぎるとかいう難点は多々あるが、常に外見より中身を重視するタイプである。
そして自分の直感には絶対の自信を持っていた。 もし彼が「他人に興味が無い男」と評されたら「興味をもてるような他人がいないからだ」と鼻で笑うことだろう。その海馬が何故か今、この幼い子供には興味を引かれていた。
もっとも、この目の前の不可思議な子供が帰ってきた宿命のライバルその人(ついでに妖怪)である等という非ィ科学的な事実には思いもよらなかったが…。

その時、外の花火の音と歓声がひときわ大きくなった。
今、花火大会はクライマックスを迎えているようだ。
アテムは急に外に出たくなった。こんな室内にいるのはもったいない。
「海馬!花火見ようぜ!」
アテムのその声に海馬はびっくりしたようだった。なぜなら、学生でなくなった今、自分をそのように呼び捨てにする者など周囲にはいないからだ。
その顔が可笑しくて、アテムは海馬の手を引っ張って外へと駆け出した。
デュエル場を出ると、辺りは人の波だ。人垣の隙間から空を見上げると大輪の花が色とりどりに広がっている。
藍色の夜空、昼の暑さを残す蒸し暑い空気、歓声をあげる人々の声、遠くに光る童実野港、水平線の上にはちらちらと船の灯りが見える。
素晴らしい眺めだった。
まさしく夏が終わる瞬間だ。

この世界に戻ってこれて良かった。
そんな気持ちを噛み締めながら、しばらくアテムはその光景に見とれていた。

すると突然、海馬がアテムを抱き上げた。
「この方がよく見えるだろう」
海馬の声は静かで、その動作はとても自然だった。
(そういえばコイツ意外と子供には優しかったっけな)
そう思いながらしっかりした肩にアテムが手を回してしがみつくと海馬の端正な顔が間近に見える。少しひんやりとして気持ちいい海馬の首筋に頬を寄せて、アテムは花火より青い瞳を覗き込みながら言った。
「なぁ…明日もういっかいデュエルしてくれないか?」
それを聞いた海馬は少し困ったような表情だ。
「明日か…確約は出来ないが、時間が空いたら…」

「よーし!明日おまえを倒せば100ポイント達成だ!
 デュエルディスクを手にいれるぜ!」
拳を振り上げ虚空にガッツポーズ!
楽しげなアテムの声と同時に最後の花火の音が華やかに響き渡った。

(妖怪王第九夜に続く)