妖怪王

第十一夜

その日の夜、アテムは海馬ランドに向かった。
今の自分が置かれた状況はひとまず忘れてデュエルに没頭したかったのだ。
海馬との約束の時間より大分早く着いたが、昨夜とは違い屋内デュエル場は大変な混雑だ。デュエルシステムは長蛇の列で、待ち時間を考えたら自分の番がくるのは深夜になってしまいそうである。とりあえずアテムはいつものように予約用紙に名前を記入し、列の最後尾に並んだ。
その時、管理員の側に立っていた黒服の男が声をかけてきた。
「君がアテムだな?瀬人様から伝言がある」
黒服の男はアテムに長方形の箱を手渡しながら抑揚の無い声で続けた。
「瀬人様は急な仕事が入って来られない。代わりにこれを渡すようにと」
「なんだ?コレ」
「確かに渡したぞ。では」
そのまま男はデュエル場を出て行った。その後ろ姿を見ながらアテムは呆然と立ち尽くしていた。確かに海馬は超多忙な男であるのでこういう成り行きも納得はできる。ただ、期待していた分失望も大きい。
(なんだよ!海馬の馬鹿野郎!楽しみにしてたのに!)
なんだかすっかりデュエルする気がうせて、アテムはそのまま屋敷に戻る事にした。

屋敷に戻るなり、アテムはソファに突っ伏した。
なんだか腹がたって、同時に何故か悲しくて複雑な気分だ。
(アイツ、オレが子供の姿だからって軽くみてやがるのか?)
その時、主の帰還に喜んだクリボーが突然現れてもふもふの身体を擦りつけてきた。
その毛皮の暖かさを感じてアテムの心は少し慰められた。
そういえば、黒服の男に渡されたこの箱はなんなのだろう?
アテムは起き上がってソファの横に投げ出されたままの箱を開けた。
すると、中から出てきたのは真新しいデュエルディスクだった。
以前のものより少し小さく、軽量化されている。おそらく最新機種なのだろう。
欲しかったものが急に目の前にあると、喜びよりも先に驚きの方が先にたつようだ。
ソレを見つめること約5分、その後、アテムがそうっとデュエルディスクを手に取ると、ひらりと何か紙切れが落ちた。
「何だ?」
それは小さなメモ用紙だった。
『不本意ながら今日のところはおまえの不戦勝としておいてやる。ポイント獲得の景品を受け取るがいい。再戦の機会を待つ。』
そのメモにはそう書かれていた。
(ああ、海馬だ…)
その余りにも傲岸不遜な文章、約束をすっぽかした詫びなど一切無視。だが、それが海馬であり、アテムはその変わりなさに感心した。よく見るとメモはデュエルシステムの予約用紙の裏に書かれている。よほど急いで書いたのだろう。文字が乱れていて読みにくい。その時の海馬の様子が目に浮かぶようだった。きっといつものように部下を怒鳴りつけながら仕事場へと早足で戻っていった事だろう。
「フフ…」
自然と笑みが浮かんだ。
海馬はちゃんと自分と約束したデュエルをするつもりだったのだ。
その事がデュエルディスクを手に入れた事より数倍嬉しく感じるのは何故だろう。
「いいぜ海馬!これはオレの戦利品として受け取ってやるぜ!」
さっきまでの腹立ちも悲しみもさっぱり忘れて、アテムはいつものオーバーアクションでデュエルディスクを装着した。
ただし、今の姿では今いちカッコがつかないな…とは思ったのだが…
その時、ブラックマジシャンが忽然と姿を現してこう言った。
「マスター!なんてお可愛らしい!」
「可愛いなんて言われたくないぜ!」
アテムの憤慨もよそに、魔術師はニコニコと愛らしい主を見守っていた。

(妖怪王第十二夜に続く)