妖怪王
第五夜
「うわぁ〜まさにお化け屋敷だねぇ〜」
獏良が嬉しそうに言った。
モクバや遊戯達一行が海馬邸に着いたとたんの第一声である。
「ねぇねぇ、ココを海馬ランドの一角に移してお化け屋敷アトラクションにすればいいの
にぃ〜遊園地にお化け屋敷が無いのは邪道だとおもうんだぁ〜ボク」
獏良の手前勝手な高説はさておき、確かに人の住まない屋敷というものはどんなに手入れしていても、どことなく寂れた雰囲気を醸し出すものなのだろう。白い壁は少々煤け、ツタがはびこりだしている。夏草の勢いは凄まじく庭木も丈高く生い茂っている。夏の陽もようやく傾き、夕闇が迫った情景はまさに『お化け屋敷』という趣だった。
「チエッ!執事のヤツ、庭師入れるのサボってやがったな!」
そうぼやきながらモクバが正面のドアを開けると、
薄暗い室内にぬっと怪異な大顔面が浮かび上がった。
「モクバ坊っちゃま!!!お久しぶりでございます!」
「ひぃいいい!!出たぁ〜〜〜!!!」
叫び声をあげたのは当然、オバケ大嫌い男の城之内である。
「失礼だな!ウチの執事だぜぃ!以前会った事あるだろ!」
だが、一瞬モクバは思った。お化け屋敷の噂はコイツのせいなんじゃないかなと。
確かにこの小男の容貌は奇々怪々で、彼が今のこの屋敷の周りをうろついていたら、お化けと間違われても仕方がない。自分達がアメリカに居を移した時点で使用人全員には暇を出し、唯一この執事だけに屋敷の管理を任せる事にしたのだが、もしかして人選を謝ったのかもしれない。
とりあえず一行は屋敷に入り、玄関ホールを抜けた所にある応接間で執事の話を聞く事にした。だが、よくよく聞くと、どうやら噂のお化けというのは執事の事ではないようだ。なんでも、そのお化けは最近夜になるとこの屋敷周辺に出没し、見た者の話では「黒い服」を着ていて「闇に光る赤い眼」で、「ツンツンした赤い髪」の「子供もしくは少年」で、「出会った者に必ずデュエルをふっかける」という。
その話は都市伝説としてあっという間に子供達の間に伝搬し、その後にはお決まりの「ソレを見たものは死ぬ」だの「負けると罰ゲームをうける」だのというオチがついているのだが、実際にそのような事件が起こったという事実は無い。こういった都市伝説の常として大人の耳に届くのはかなり遅く、執事が孫から偶然その話を聞いたのはつい5日前で、噂の舞台が他ならぬ海馬邸であることにあわてふためいてモクバに連絡してきたという訳である。
執事自身は一ヶ月に一度この屋敷の見回りにくるだけなので、実際にその現象(現象と言うべきかわからないが)に遭遇した事は無いらしい。
長く、くどくどしい説明の最後に執事はこう言った。
「周辺の子供たちは、ソレの事をこう呼んでいるそうですよ。
『妖怪デュエル小僧』と」
「そそそそれってぇぇぇ!?!?」
素っ頓狂な声をあげた遊戯だけでなく、その時、全員の頭に同じ考えが浮かんでいた。
その珍妙かつ面妖な通り名にも関わらず、黒い服に赤い眼赤い髪、デュエル、とくれば、それはまさしく…いやいやいやそんな馬鹿な!だってだって!
と、その時、
遊戯は頭上から響く軽く密やかな音を聞いた。パタパタというその音は、まるで子供または小動物の歩く音のようだ。
「何かいる!二階だ!」
震え上がった仲間達を置いて、遊戯はひとりで階段を駆け上がった。
二階の暗い廊下をたどり、遊戯は音のした方向を目指す。一番奥まった部屋のドアが開かれたままなのが見えた。
その部屋に入ってみると、意外なほど室内は明るい。ベランダへ続く窓が開け放たれており、月の光が差し込んでいるせいだろうか。室内は静かで何の気配も感じられなかった。
そのまま無意識にベランダに出た時、遊戯は見た。
遠く庭の樹木の間を門の方に向かって駆けて行く小さな影を。
月明かりの中で、その髪だけが赤く燃え立つ炎のように輝いて見えた。
「もうひとりのボク…」
そんなはずはないと思いながらも懐かしいその名を呟くと、
胸の奥が少し痛んだ。
(妖怪王第六夜に続く)

