妖怪王

第一夜

気づいた時には、アテムは妖怪になっていた。
何故妖怪なのかという瑣末な事柄には目を瞑って欲しい。
これはそういう物語なのだから。

かつては運命に身を殉じた古代の王であり、その三千年後に闇の番人としていくらかダーティなおイタもした「闇の遊戯」であり、その後優しい半身と仲間に恵まれ「もうひとりのボク」として目出たく過去を取り戻して「アテム」になった彼であったが、
成仏して光の中に物語完結!…したハズだ、確か。

しかし今、気づいた時には、彼は広い部屋にひとりで立っていた。

部屋の中は真っ暗だったが、月明かりが煌々と部屋の内部を照らしている。
アテムは窓際まで歩いてみた。どうやら身体は以前と変わりなく動くようである。
窓ガラスに映る自分の姿を見てアテムは首をかしげた。
古代の王の装束では無く、黒いトップスにスタッズ付きのベルト、濃紺の学生ズボン、
首にはベルト型チョーカー。まさに現世での「闇遊戯」であった時と同じ出立ちで、
違うのは千年パズルをかけていない事くらいだろうか。肌の色も心なしか白く見える。
がらんとした部屋には人っ子一人おらず、家具は全て白い布で覆われているところを見ると、ここは無人の館のようだ。だが、確かに見覚えのある場所だった。
大きな窓はベランダに通じており、アテムは外の様子を伺って気づいた。
そうだ、ここは海馬邸だ。
…という事はオレは現世に戻ってきてしまったんだ。とどのつまり、また成仏し損ねたという事だろうか?ああ、情けない情けない。文字通り心を引き裂かれるような想いで自分を還してくれた相棒や自分を見送ってくれた仲間達にどう顔向けしたらいいのだろう。アテムはがっくりと膝をついた。

その時である。
「クリクリ~」という鳴き声とともに、茶色のもふもふした固まりがアテムに飛びついてきた。それを合図のように、次々とモンスター達が現れる。
エルフの剣士、カースオブドラゴン、ガイア、バスターブレイダー、ルイーズ、カオス、
後から後から現れるしもべ達はアテムの周りを囲み、見守るように微笑んでいる。
「マスター、またお会い出来て光栄です」
その声はマハード、いや、姿かたちは馴染み深いブラックマジシャンが、
仲間達の中からしずしずと進み出て仰々しく一礼した。
師匠の影から金色とピンクに輝くガールの笑顔も見えた。
「お前達…一体…」
そうアテムが言いかけた時、

「おい、ホントに大丈夫なのかよ~」
「大丈夫大丈夫、ここ空き家だからさ」
部屋のドアの向こうから数人の子供の声が響いた。
「マスター!隠れて!」
ガールの声に、アテムは手近にあったソファの上がけの下に潜り込む。

「ここってアレだろ?カイバサマの屋敷なんだろ?」
「そうだけど、以前は警備員とかいっぱいいたけど、今はヘーキヘーキ」
「カードの一枚くらい落ちてるかもしんないぜー」
「カイバサマ金持ちだから、落ちてたらもらっちゃってもいいよなー!」
「それより、そのへんになんか売れそうなモノあったら持って行こうぜ!」

不届きな子供達である。
子供とはいえ、いや子供だからこそ不正な行いはいけない。
子供の時から盗人のような真似をしては将来に暗い影を落とす事になるに違いない。
そう、アテムは思った。民(じゃないケド)を正しい道に誘うのが王の務め、
根本的に基本的にアテムの根っこに染み付いた王としての魂がそう言っている。

ドアノブを開けるガチャリという音が無人の屋敷に響き、
子供たちが部屋に入ってきた瞬間、アテムは立ち上がって叫んでいた。

「無断でここを訪れる者は誰だ!!立ち去れ!!」

とたんに子供達は恐怖の叫び声をあげて、てんでんばらばらに逃げ出した。
「!!!! お…お化け~~~~!!!」

その後しばし、どたんばたんと子供達が転げる音と泣き声が続いたが、
数分後には屋敷は元の静けさを取り戻した。
森閑とした部屋の中で、アテムは呆然と呟いた。

「お化け…?だと?」

「お見事ですマスター」
ぱちぱちと手を叩きながら現れたブラックマジシャンに向かって、アテムはおそるおそる問いかけた。聞きたくないけど、これはやはり確かめておかねばなるまい。
「オレは…今のオレは…一体何なんだ?」
「そうですねぇ。この人間世界の言葉で言うなら…
 マスター、今のあなたは『妖怪』です」
いつもマジだからブラマジか?というくらい真面目で忠実なしもべの口から出た、この珍妙な言葉。妖怪って何だっけ?アテムが今まで現世で学んだ知識をフル動員したあげく思い出したのは、半身と共に見たTV番組でちゃんちゃんこを着て仲間達と踊り回るキャラクターと「よる~ははっかばでうんどうかい~」という能天気な歌であった。

「やっぱお化けなのか…」
アテムは再びがっくりと膝をついた。



(第二夜に続く)