妖怪王

第十夜

「ええ~妖怪について聞きたいってぇ~?妖怪を語らせたら長いよぉ~ボク!
え?短く説明してくれって?そうだなぁあーつまりさぁ歴史的に考えるともう古代から
あるんだけど文化として定着したのはもっと後だね。そう文化だよ文化!もともとは昔
の人が自分達に害をなすもの、つまり自然現象や災害とかをさ、正体がわからないともっと怖いから名をつけちゃったモノだよ。人間ってさ正体のわからない恐怖ってのに弱いワケ!だからなんかあった時に『ああ、アレのせいなんだな』って納得したいワケ!そんなふうに怖かった事象に名をつけていったんだよ。名前って一種の呪縛だからさーその名前が他の人達にも伝わっていったんじゃない?初めは口伝えだったけど、そのうち文章で書かれた本とかになってね。聞いたり読んだりしてるとそりゃ今度は絵にしたくなるよねぇー絵描きさんの想像力刺激されちゃうよねー。で今度は名だけじゃなく姿、ビジュアルね、も与えられた訳。名で縛られ姿で縛られ、どんどん訳の分からないものじゃなくなってさ、そうなるとなんか身近なカンジがしてきちゃったんじゃない?河童とか時代が下がってくればくるほどユーモラスな姿だもんねー。そのうち創作妖怪みたいなのまで生まれてきてさ、怖かった事象の象徴というより、『こんなのいたら面白いなー』ってカンジで勝手に創られちゃったり、あ、ボクの好きなのはねー
え?そのへんもはしょっちゃってくれって?なんだぁつまんないなぁ
とにかくさぁ現代における妖怪ってのはもう既にキャラクターだと思うんだボク。
オバQとか鬼太郎とかは本来絵描きさんの創作物だよね。でも人気が出たら皆に認識された存在になり得るワケ。ほんとはいないんだけど名前や絵を見れば『あ、アレね』って皆がわかるでしょー?これはもう文化だよ。文化。今の日本の漫画業界なんか続々と妖怪生み出してるようなものだと思うんだボク。あ、でも流行らなきゃダメだよ?皆に忘れられちゃったらそのキャラクターは消えちゃうからねーそれでねそれでねボク的に今一番のオススメはねぇー(以下ry)」

長い電話だった。ハゲシク長い電話であった。
疲れ果てた遊戯が携帯を切った時はすでに午前10時を過ぎていた。
今日も残暑厳しい一日になりそうである。
朝方、アテムが自分の身の異変について語った後、遊戯はこの手の話題については獏良に聞くのが一番いいと判断した。もちろん今のアテムの存在については明かさずに『妖怪』についてのWikipediaが知りたかったからなのだが…。
だが、さすがにマニアックな獏良である。遊戯にはそのコアな説明のほとんどがイミフだったが、彼の説明を聞いているうちにおぼろげながら解ってきた事がある。
遊戯は、ちょこんと横に座って遊戯と獏良の電話が終わるのを待っていたアテムに向き直って言った。
「ねぇ、キミは外に出る時はいつもその姿だったんだよね?」
「そう…だな。確か」
「ここに戻ってきた時は前の『もうひとりのボク』の姿だったって言ったけど、人に姿を 
 見られた時はいつもこの子供の姿なんでしょう?」
アテムは首をかしげてしばし考え込んだ。初めての夜、海馬邸に忍び込んだ子供達を脅かした時は確かシーツをかぶっていたから姿を見られてはいないと思う。
「ああ、人前に出る時はいつもこの姿だったな」
「キミが今は妖怪だって前提で考えるとさ。何人もの人が目撃した『妖怪デュエル小僧』
 は子供の姿だって事になるよね?つまりさ、獏良くんが言ってたんだけど名に縛られ姿   
 に縛られると妖怪はキャラクターになるみたいだよ。結果的にキミは今のその姿で周囲  
 に認識されちゃったからその姿で固定しちゃったって事じゃない?」
「それだけでオレは前の姿に戻れなくなったのか!?」
アテムはショックだった。もしかしてこれからは『アテム』ではなく『妖怪デュエル小僧』と名乗らなければならないのだろうか? もとよりカッコ悪いネーミングには不満だったが、そのせいでこんな事になるとは。
「ブラックマジシャンの修行不足のせいじゃなかったのか…」
そうつぶやくアテムの横で、姿の見えない魔術師の咳払いが小さく聞こえた。

「で、キミは元の姿に戻りたいの?」
だが、そう遊戯に問われてみると、アテム自身良く解らなくなってきた。
実を言うと今のこの幼い子供の姿の方が便利な事がいろいろある。
以前の自分だとはわからない事とか。 海馬ランド無料とか無料とか無料とか。
そしてアテムは昨夜の海馬の事を思い出した。
海馬は自分がこの子供の姿でも決してデュエルに手を抜いたりしなかった。
前のように敵として憎しみの目を向ける事も無く、純粋に真剣に闘ってくれたように思う。デュエルが終わってから二人で花火を見た時も海馬は優しかった。
今まで知らなかった海馬の一面を見たような、いや、以前から知ってはいたが、かつての自分には決して見せてくれなかった一面を見れたというか…
海馬とはライバルであり友、常にそうありたいと願ってきたアテムだったが、ふと、
(ああいうのも悪くないな…)と思った。
その時、考え込んでいるアテムに向かって、遊戯がこう言った。
「キミが元に戻りたいんなら、手はあると思うんだボク。
 だって、キミがしばらく人前に出ないようにすれば、そのうち噂は消えて『妖怪デュエ
 ル小僧』も忘れられちゃうハズだよ。そしたらもうその姿に縛られなくなって元に戻れ
 るんじゃないの?」
さすが相棒はアタマがいいぜ!とアテムは感心した。なるほど理にかなっている。実践してみなければ真偽は解らないが…。
ただ…
「相棒…少し考えさせてくれ。
 それと、オレの事はまだ他の皆には内緒にしておいてくれないか?」
そう言ったアテムに、遊戯は変わらぬ暖かい微笑みを浮かべてうなずいた。

(妖怪王第十一夜に続く)