妖怪王
第六夜
「ふう、危ないところだったぜ」
海馬邸から走り出てほぼ30分後、海馬ランドのゲート前でアテムは呟いた。
アテムが再び現世に戻ってきてから約一ヶ月がたっている。完全に空き家だと思って安心してねぐらに使っていた屋敷に、まさか突然彼らがやってくるとは。
「相棒の声を聞くのは久し振りだったな…」
アテムは半身の優しい笑顔と穏やかな丸い瞳を思い浮かべた。
あの時、いつもどおり出かける準備をしていたアテムは階下に人の気配を感じた。不意の来客の姿を確かめようと部屋を出たとたん玄関ホールの方から聞こえてきた声。その懐かしい響きに驚き、そのままそっと階段の柱の影に身を隠したのだった。聞こえてくる声だけでもアテムにはすぐに誰が誰だか解った。遊戯、モクバ、そして城之内や杏子達までいるようだ。見当がつかないのは年配の男の声だけだったが、その男の話に聞き耳をたてているとどうにか彼らの来訪の理由が解ってきた。
それにしても『妖怪デュエル小僧』ってオレ!?アテムはびっくりした。
確かに二度ほどこの屋敷周辺の子供とデュエルした事はあった。魔術師に姿を変えてもらっていたので正体がバレる事は無いと思っていたが、そんな噂がたっていたとは…
正しく自分は妖怪なので、これはもう異議を申し立てる隙もない。
「これじゃますます相棒達に会えないじゃないか…」
そうして、アテムは見つからないよう急いで屋敷を抜けだし海馬ランドに向かったのだった。
「もうちょっとカッコイイ名にして欲しかったぜ」と思いながら。
「あらぁ今日は元気ないのね。大丈夫?」
海馬ランドのゲートをくぐったとたん、すっかり顔見知りになった切符もぎりのお姉さんが声をかけてきた。アテムが最初に海馬ランドに来た時も彼女が勤務しており、「こんな遅くに?お父さんかお母さんは?」と質問してきた。「オレにはお父さんもお母さんもいないぜ」と答えたアテムに同情したのか、彼女はそれ以来なにかとアテムに親切にしてくれる。親の無い子と判定され海馬ランドのフリーパスをもらえたし、会うとよくお菓子や飲み物等をくれる。その中でもアテムが一番嬉しかったのは、海馬ランド特製のスタンプカードをもらった事だった。
それは少し前のイベントで配られたものらしいが、ランド内でデュエルに一回勝つと星形のスタンプがひとつもらえ、スタンプがたまると景品と交換してもらえるというカードだった。スタンプ20で20ポイントの景品、50で50ポイントの景品、というようにランクアップしていき、100ポイントの景品はなんとデュエルディスクだ。アテムはデュエルディスクが欲しかった。当然海馬ランドには無料でレンタルできるデュエルディスクも置いてあったが、アテムは自分のデュエルディスクがどうしても欲しかったのだ。
以来せっせと海馬ランドに通いデュエルをしてスタンプをため、現在99ポイント。
あとひとつで目標達成である。
ここで一応説明しておこう。
今のアテムは5、6歳の子供の姿をしている。
ブラックマジシャンは魔法でアテムを小さい子供の姿に変えた。
服装はそのまま髪型もそのままだが、ぷにぷにの手足に大きな赤い瞳が実に愛らしい子供である。それはもう、お姉さん方の母性本能にダイレクトアタックできるほどの。
アテムは自分が子供の姿になっている事に気づいた時は驚いたが、いろいろと好都合な事も多かったので(海馬ランドがフリーパスだとか)以来外に出る時はその姿である。
見かけは子供、中身はオトナ(?)の妖怪デュエル小僧アテムくんは今、先ほどのショックを封印し、次の闘いのために気を引き締めて、ゆっくりとデュエル場へと向かうのだった。
(妖怪王第七夜に続く)

