妖怪王

第四夜

真夏の夕方のラッシュ時間、熱されたアスファルトの上には陽炎がたたんばかりだった。その中を黒塗りの高級車が童実野町市街を走り抜ける。車内は大騒ぎだった。
「まったく!なんでお前らまでついてくんだよ!うるせーんだよ!」
ぎゅう詰めの車内でモクバが怒鳴った。
「なんでぇその言い草!久し振りに帰ってくるっていうから出迎えてやったのによぉ」
「相変わらず可愛くねぇガキだなモクバ」
「歓迎会しよっか?って相談してたのよ」
「でも、僕のおすすめのイタリアンの店の予約がとれなくってさ」
「せめてクラッカー買っとけばよかったねぇー」
日本に着いたモクバが遊戯の実家である亀のゲーム屋のドアを開けると、そこにはお馴染みの愉快な仲間達が全員集合していたというワケである。
憎まれ口をたたきながらも、モクバは嬉しかった。自分を変わらず仲間として暖かく迎えてくれた彼らは、モクバに故郷に帰ってきたという実感を与えてくれた。初めは遊戯ひとりに告げて相談するつもりだったが、もうこうなったらしかたがない。本田、城之内、杏子、御伽、獏良、もともと彼らみんなに関わりのある事柄なのだ。仲間全員で確かめてもらった方がいいとモクバは腹をくくった。
「で?モクバくん、ボクに用事って何なの?」
いつもの穏やかな口調で遊戯が問いかけた。
「実はさ…この前執事から連絡があって…」
兄の瀬人とは空港で別れた。磯野は兄に押しつけ、自分は口の堅い運転手兼SPを一人だけ連れた状態だ。行動を知られないように通信機であるKCバッチも外している。兄は午後は海馬ランドの視察に行くといっていたので、おそらくこれから自分たちが行く場所で鉢合わせする事は無いだろう。

「空き家のまま置いてあるウチの屋敷にさ。
 最近、お化けがでるって噂になってるらしいんだぜぃ!」
驚く仲間達(ビビる城之内、大喜びの獏良含む)に向かって、モクバは話の詳細を語った。阿鼻叫喚の車内を防音ガラスでぴしりと封じ、車は市街を抜け、童実野町の高台、山の手の一角に差しかかった。海馬邸はもう目前だ。

一方、同時刻。
海馬瀬人は海馬ランドの中央にそびえる海馬キャッスルのバルコニーに立っていた。当然のごとくガチガチの金具で締め上げた黒いインナーの上にゾロリと長い白コートをはためかせたデュエル正装で、真夏の30度越えの気温の中汗ひとつかかずに。
背後に10人ほどのSPを従えたその姿は、まさに「帝王サマのおなりじゃー!」という様相を呈していて、それを見上げた客達は。この有名人を歓声で迎えるべきだろうか、はたまた土下座でもするべきだろうかと頭を悩ませた。
落成当時はビル一つであった海馬ランドは、次々に敷地を広げアトラクションを増やし、今や海を望む広大なテーマパークになっている。園内では屋内屋外を問わずどこでも最新のバーチャルリアリティを使ったデュエルが楽しめるようになっており、常に決闘者で溢れ帰っている。おまけに今日は恒例の夏の特別イベントである童実野湾花火大会の日ともあって一般の観光客や家族連れをも加えて大混雑である。

「フン。愚民どもめ。せいぜいここで日常を忘れるがいいわ」
海馬は城下を睥睨し満足そうにそう言った後、側に付き従う磯野に目を向けた。
「例のデュエリストはまだ現れないのか?」
「はっ!なんでもその者が現れるのはいつも夕方6時過ぎだと言う事です」
「まだ5時だな。あと1時間もあるではないか。最新アトラクションの施行調査とラボの  
 視察、本日の花火大会の予定確認を先に済ませる。行くぞ!」
どこにいても変わらずせっかちで早足な社長のご機嫌を損ねぬよう、磯野は時差ぼけで朦朧とする頭を押さえつつ駆け足で後を追った。

(妖怪王第五夜に続く)