ふぃぎゅあ
闇遊戯が言った。
「そうカリカリするなよ海馬」
それに海馬が答える。
「フン!貴様の能天気さにはほとほと呆れ果てるわ! 一体何故オレが!こんな所に!こんな非ィ科学的な姿で陳列されねばならんのだ!」
そんな彼らの話し声は、無論周囲の人間達には聞こえない。
身体が七分の一の大きさだから声の大きさも七分の一だ。
ここは正方形のガラスのボックスが数多く積まれた薄暗いアーケードの一角。それぞれのボックスにはフィギュア、カード、ぬいぐるみ、ガチャガチャの景品、はては缶バッジやビールの王冠まで、種々雑多ながらくた(マニアでない者の目からすれば)がギチギチに詰め込まれており、どうやらワンボックスにいくらかのレンタル料を払って誰でも出品物を売る事が出来るというシステムらしい。
そんな中のひとつに彼らは居た。二人だけで。デュエル正装で。
そのスカスカ感、いや空間を贅沢に使ったボックスは周囲とは一線を画しており、出品者の演出なのかそれとも単なるどーでもよさの表れなのか、せっかくレンタル料払うのにもったいないと通る人に囁かれるほどである。
しかし、とりあえず彼らは居た。正方形のガラスボックスの中に。二人ともきっちり正面を向いて横並びに。
「今通った女の子、オレの方見て「きゃーカワイイ!王さまだわ!」って言ってたぜ」
「こんな所で愚民どもに好奇の目でジロジロ見られて嬉しいのか貴様は。 オレは無遠慮に覗き込む奴らの顔を見るだけで吐き気がする!」
「そういえばおまえはさっきの男に「げ!海馬だぜ。ダセー」って言われてたもんな。気にすんな」
「何を言うか!勘違いするな!あのような真の価値もわからぬ下郎に何を言われても腹も立たんわ!」
「価値…あるのか?そういやオレたちなんでここにいるんだろう? どうやら売り物になっているらしいが…」
「とりあえずこのままではデュエル出来んのは確かだ。」
「なんだお前、ずーっと苛立ってんのはソコ?」
「当たり前だ!貴様とオレが対峙した時そこは闘いの場となる! 限りなく続く闘いのロードを歩む事が貴様とオレに(長いので中略) 今このようにカードの剣とデュエルディスクの盾を装備した姿であるにも関わらず次のターンにも、いや、最初のターンさえ完了できない姿でいるなど苦痛でしかない!そもそもこの立ち位置はなんだ!オレと闘いたくば正面から向かってこい遊戯!」
「うーん…でもオレたち自分じゃ動けないからな。いいじゃないか。いつかみたいなタッグデュエルだと思えば」「貴様以外の他の敵もおらんのに何故タッグを組まねばならんのだ!!」
そう、彼らふたりはフィギュアである。
一ヶ月いくらでレンタルされるこのボックスの中に置かれてからもう一週間になる。
彼らが何故しゃべれるのかは解らない。いや、本当はしゃべっていないのかもしれないのだ。周囲の人間には聞こえないのだから。
だが、ヒトガタには魂が宿るという風説があるように、彼らはこの一週間ボックスの中で二人だけで上記のような不毛な会話を、もとい彼らなりに重要な会話を延々と繰り広げていた。実のある結論は出なかったが。
「どちらにせよオレ達、しばらくはここに居るしかないようだぜ。そうだ、このままでデュエルしようぜ海馬(ウインク付き…のつもり)」
「?」
「オレのターン!ドロー!オレは幻獣王ガゼルを攻撃表示で召還!カードを二枚伏せてターンエンド」
「フン、エアデュエルか。まぁいい。暇つぶしにはなるだろう(ニヤリと笑った…つもり)。
オレのターン。ブラッドヴォルス召還!」
あいかわらずデュエルさえしていればご機嫌な二人である。というか、もっと早くこの案を思いつかなかったのか?というツッコミさえしたくなる。単純と言いたくば言え仲良き事は良き事かな。
彼らが真剣に(楽しく)想像上のデュエルを始めたその時、ボックスの前にぴたりと立ち止まった人影があった。
それは地味なスカートをはき大きな鞄を下げたひとりの(元)少女だった。
彼女はじっと彼らのいるボックスを見つめた後、辺りを見回してはじっこの方でヒマそうに携帯をいじっている店員に声をかけた。
「あの…すみません…これ、見せて頂けませんか?」
「はいはい、ちょっと待ってねー」
なかなか顔を上げようとしない店員に文句も言わず、彼女はもう一度彼ら二人を交互に眺めながら、なにか迷っているようにも見える。
「はいは〜い。コレいいよね〜新品同様だよ〜箱もあるよ」
やっと店員が接客しに来た。
「なんという言葉使いだ。社員教育がなっとらん!」
海馬が吐き捨てるように言った。(もちろん人間達には聞こえなかったが)
「あの…こちらの王さ…いえ、闇遊戯の方を」
「はいはい」
店員がボックスを開けて無造作に闇遊戯をつかみあげたその時、カタン!という音をたてて海馬が倒れた。
商品を止めてあったコードが片方を出す時に引っかかってしまったのだ。驚いた店員は振り返り、倒れた海馬を不器用な手付きで元通りに立て直す。その一瞬、店員の手の中の闇遊戯とボックスに残された海馬の視線がぴたりと合った。この一週間、同じ空間に居ながら一度も正面から見据える事の出来なかった赤い瞳と青い瞳が。それは塗料で描かれたものであったけれど、その瞳は確かにその魂そのままのように輝いていた。
「あの…これって…もしかしてセット売りなんですか?」
(元)少女が店員に訪ねていた。
「ううん、そんな事ないよーでもセットの方がお買い得だよねー」
(元)少女は下を向いてしばらく考え込んだ後、思い切ったように言った。
「すみません!今持ち合わせが無くって、また来ます!」
客が去り店員は闇遊戯を元通りボックスに戻した。彼らはまた正面を向いて並んで立っている。
「残念だったな遊戯。せっかくここから脱出できる機会が訪れたというのに」
皮肉った海馬に闇遊戯は答えた。
「良かったぜ。おまえとのデュエルの途中じゃないか」
海馬は無言だった。表情の動かない身であって良かったと思いながら。
その時突然、バタバタと走ってさっきの(元)少女が戻ってきた。店員を呼んで話しているのが見える。彼女は蒸気した顔で言った。
「さっきの闇遊戯と海馬をセットで買います!」
今、彼らは別の場所で別のボックスの中に居る。
二人だけで。デュエル正装で。まだワンターンも経過していない状態で。
ただ前と違うのは、正面から対峙して置かれている事だ。
彼らの新しい持ち主は時々ボックスや彼らの埃を優しくはらい、元通りのまま飾ってくれる。そして、最近後ろにブラックマジシャンとガールの入ったボックスが増えた。
「何故青眼がおらんのだ!!」怒り狂う海馬に闇遊戯はなだめるように想像上のデュエルをもちかける。
たとえ彼らが動けないヒトガタの運命であっても、人間のようにその肉体が滅びる事は無い。
これから彼らはいつまでも何度でも、永遠に見つめ合い闘い続けられるのだ。
(了)祝!フィギュア発売!
20120621
