KC EVENT


驚いたのは武藤家の平和な朝ご飯中、まさしくごくごく平凡なニッポンの日常である朝のお茶の間のTVにいきなりでかでかと海馬が映った事だった。
ニュースが伝えているのは、どうやら昨晩アメリカで行われたKCの新製品発表会の映像らしい。
動画をそのまま流しながら下に解説のテロップが流れる仕様だ。

「米コンベティンションセンター14日20時。海馬コーポレーションCEO(最高経営責任者)による新製品プレゼンテーションは大成功。最後にはスタンディングオベーションで締めくくられたエキサイティングなイベントだった」
そのテロップは日本語だったが、ノーカットで放映されているらしき海馬のスピーチは全て英語であり遊戯にはまったく意味がわからない。
なんで字幕つけないんだよぉ!吹き替えでもいいんだよ?ツダケン希望だけど。つか海馬くんさぁ日本人なんだから日本語でしゃべってよ!とツッコミ入れたい気持ちをぐっと押さえて遊戯がふと傍らの半身を見ると、彼は画面に釘付けである。
いや、釘付けどころでは無い。TVの前を陣取って正座である。
おかげで遊戯には画面が見にくくてしょうがないのだが、彼の姿は遊戯にしか見えないので無問題であった。
仕方なく遊戯は小声で彼に話しかけた。
「ねぇ、もうひとりのボク、意味わかる?」
「ああ、言葉はわからないが何かが伝わってくる」
ソレって全然わかってないって事だよね?遊戯は思ったが口には出さない。
海馬の背後には特大のモニターが設置され新型のデュエルディスクが写っている所から察するに、どうやらハード面での新開発らしく、次々に表示される英単語も専門用語ばかりで遊戯には全く面白くは思えなかった。
海馬ランドの新しいアトラクション発表とかだったら良かったのになぁ…もう意地悪してチャンネル変えちゃおうかなー。そんな事を思っていた時である。
「この海馬のスピーチはなかなかいいぜ!」
いつもの腕組みをした偉そうな王様ポーズで半身が言った。…下半身は正座だけれども。
え?キミ内容わかんないのに何言っちゃってんの?ソレってただのノロケじゃね?
遊戯は思ったがこれも口には出さずに改めて画面を見直して気づいた。

画面の中の海馬は弁舌巧みに新製品のプレゼンを進めていた。
白い背広が暗めな会場の中で輝いているように見える。
海馬の英語はとても流暢で歯切れ良く、英語赤点の遊戯でさえ「先生より上手いな」と感心した。
そしてなにより、言語が違うとこうも印象が変わるものだろうか。
いつもの尊大な口調は、そのまま自信に満ちたトップの態度として好ましく見え、他人に口を挟ませない強引さは会場を支配し、聞く人を圧倒する力に満ちていた。加えてスラリとした長身に整った風貌、十代の若さでありながら周囲の誰よりも落ち着き払った態度は、そのアンバランスさ故にカリスマ性を感じさせた。

もともと英語には日本語のような謙遜謙譲の精神は無い。
ただ率直に、力強く、自分の意志を伝える言語、それが英語だ。
海馬くんにはアメリカが合ってるのかもしれないな。そう遊戯は思った。

プレゼンの最後に、海馬は新しく開発したデュエルディスクを自らの腕に装着し、カードをドローするアクションを披露した。
おそらく引いたカードは青眼白龍。その青い瞳が輝き、口元にいつもの不敵な笑いが浮かぶのを、遊戯と半身は見た。

「海馬くんってさぁ、かっこいいねぇ」
「だろ?」

遊戯の言葉にそう答えた半身の頬がちょっと赤く見えたのは気のせいだったのだろうか。


(了)20120917嫁自慢ならぬ旦那自慢つーことで…